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青森地方裁判所 昭和47年(行ウ)2号 判決

青森県三戸郡南部町大字大向字勘吉三〇番地

原告

平野木材工業株式会社

右代表者代表取締役

平野善圀

右訴訟代理人弁護士

松彌正明

青森県八戸市大字番町一〇

被告

八戸税務署長

熊谷武夫

右指定代理人

宮北登

寺田明

久下幸男

紅林実

主文

被告が昭和四六年四月三〇日付で原告の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定の各処分のうち、所得金額一一二一万八一五二円、法人税額三三八万一、三〇〇円を超える更正処分及び税額一六万一、一〇〇円を超える過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告その一を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が昭和四六年四月三〇日付で原告の昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度分の法人税についてした更正及び過少申告加算税賦課決定の各処分のうち、総所得金額八六六万三、七六三円、法人税額二四八万七、一〇〇円を超える更正処分及び税額一一万六、四〇〇円を超える過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一、請求の原因

1. 原告は木材の製材販売を業とする会社であるが、昭和四四年五月三一日付で被告に対し、自昭和四三和四月一日至昭和四四年三月三一日の事業年度(以下本件事業年度という)の所得金額を一七六万一、八一九円、法人税額一五万八、一〇〇円とする法人税確定申告をしたところ、被告は昭和四六年四月三〇日付で本件事業年度の所得金額を二、〇〇一万八、七七〇円、法人税額を六四六万一、三〇〇円とする更正処分並びに二八万一、九〇〇円の過少申告加算税及び一九万九、二〇〇円の重加算税の各賦課決定処分をし、原告にその旨通知した。

2. 原告は被告のなした右各処分について、昭和四六年六月三〇日、被告に対し異議申立をしたが、被告はこれを棄却したので、同年一〇月一四日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は昭和四七年三月一七日付で原告の本件事業年度の所得金額を一、七〇五万四、九五三円、法人税額を五四二万三、九〇〇円とし、過少申告加算税を二六万三、二〇〇円として右各金額を超える前記更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取消し、前記重加算税賦課決定処分を全部取消すとの裁決をし、原告にその旨通知した。

3. 被告の右更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分は、本件事業年度における原告の所得金額につき、原告が右年度内に他に譲渡した盛岡市内に原告が有していた製材工場の敷地の譲渡価額五二〇万九八〇円を低額にすぎるとし、その時価を二、〇八八万二、一九〇円と評価してその差額を資産譲渡益計上もれとして所得金額に加算した結果にもとづいているが、右評価は過大にすぎ、時価は一、二四九万一、〇〇〇円を超えるものではない。従つて、原告の本件事業年度における所得金額は総計八六六万三、七六三円、これに対する法人税額は二四八万七、一〇〇円、過少申告加算税額は一一万六、四〇〇円となるにすぎない。

よつて、被告のした本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち右の各金額を超える部分は違法たるを免れないから、いずれもこれを取消すとの判決を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因第1、2項の事実はいずれも認める。

2. 同第3項の主張は争う。

三、抗弁

1. 原告は本件確定申告において、当期利益金を一四五万六、八七七円とし、法人税法所定の課税所得金額を算定するための申告調整を別表(二)のとおりなしたうえ、課税標準となる所得金額を一七六万一、八一九円と申告した。

これに対し被告は本件更正処分等において右申告金額を過少と認め、所得金額を二、〇〇一万八、七七〇円と算定したが、これに対する審査請求にかかる国税不服審判所長の裁決において、被告算定の右所得金額の一部が取消され、所得金額を一、七〇五万四、九五三円とされたが、その計算内訳は別表(一)記載のとおりである。

2. そこで先ず別表(一)中、当事者間でその計上について争いのない番号246について説明する。

(一)  別表(一)の番号2の「減価償却超過額」について。

原告が架空資産について計上した減価償却費は損金の額から減算すべきものであるので、これを所得金額に加算したものである。

(二)  同番号4の「雑費中損金否認額」について。

原告が雑費中に代表者個人の費用を計上して申告したので、これを損金の額から減算し、従つて所得金額に加算したものである。

(三)  同番号6の「未納事業税損金認容額」について。

原告は前事業年度の事業税の未納分を損金に算入していなかつたので、これを所得金額から減算したものである。

3. 次に本件の争点である同番号3の「資産譲渡益計上もれ額」について説明する。

(一)  原告は、本件事業年度内である昭和四三年四月一日、その所有にかかる

盛岡市厨川三丁目(旧表示同市下厨川字谷地頭)四六番七ないし同番一〇計四筆

の土地(以下本件土地という)及び同土地上に存在する建物機械器具(原告の盛岡工場)を一括して原告の専務取締役訴外小笠原富蔵に代金二、五〇〇万円で譲渡し、これと右資産の帳簿上の価格二、四四八万八、六二二円との差額五一万一、三七八円を譲渡益として当期利益に計上して申告した。しかし右譲渡価額は適正な時価と比較して著しく低いので、時価との差額を計上もれとして所得金額に加算したものである。

すなわち、譲渡を受けた右訴外人は昭和三九年から原告者の代表権を有する取締役となり、前記盛岡工場を譲受けた直後である昭和四三年五月三一日に退任したが、右退任については右訴外人が同工場を譲り受けることを条件とする旨合意された。このような事情の下での本件土地及び建物等の売買取引は正常な商取引でなく、右価額と時価との差額分に相当する経済的利益は訴外人に対しその取締役退任に伴つて供与された退職給与と判断される。しかるに原告は右退職給与である経済的利益に相当する金額につき損金経理をしていないので、所得の計算上損金の額には算入されず、他方、右経済的利益の供与は資産の無償譲渡として、現実には原告の収益にならなくても課税標準たる所得金額の計算上益金に計上されるべきものである。

(二)  そこで、右譲渡資産(本件土地を含む盛岡工場全体)の適正時価を以下のとおり評価した(なお、右譲渡は、右工場を解体分離して売却するものでなく営業の一部譲渡である。)。

(1) 減価償却資産について

右盛岡工場の建物、機械装置、車両運搬具及び工具器具備品の減価償却資産については、原告は定率法により毎事業年度適正に減価償却を行つていて、その帳簿価額は譲渡時の時価に等しいと認められたので、原告の申告どおりとした。その合計金額は一、一七四万六、五八六円である。

(2) たな卸資産について

右盛岡工場のたな卸資産はすべて最終仕入原価法によつて適正に評価されており、その帳簿価額は時価に等しいと認められたので、原告の申告どおりとした。その合計金額は七五四万一、〇五六円である。

(3) 本件土地について

盛岡工場の敷地及び私道部分からなる本件土地の譲渡時の時価について、被告は近隣地域の売買実例、事情精通者の意見等を参考とし、本件土地の諸条件(立地条件、間口の狭小、奥行の長大)を考慮して二、〇八八万二、一九〇円と評価した。

すなわち、本件土地公簿面積合計二、四七八・五三平方メートル(七四九・七六坪)は国道四号線に面してはいるが国道に接する間口は狭小であるうえ、いわゆる袋地である。そこで、先ず本件土地を国道四号線に面する標準的な状態の宅地(間口九・〇九メートル以上、奥行一六・三六メートル以上四五・四五メートル未満の長方形又は正方形の宅地)とした場合の三・三平方メートルあたりの価額を、本件土地近傍の売買実例価額及び事情精通者の意見価額を参考として四万五、〇〇〇円と評価し、それに本件土地の右標準宅地に対する間口の狭小、奥行の長大等の諸条件を考慮して、本件土地の三・三平方メートルあたりの価額を二万七、八五一円と評価したもので、その評価額は合理的である。

なお、本件土地の近隣地域の特性及び本件土地の規模、形状、位置等を考慮し、かつ本件土地が現実に工場地として使用されていることを斟酌すると、その最有効の使用法は工場地であつて、比準すべき売買取引事例もかかる視点から選定されるべきである。

(4) 退職給与引当金について

盛岡工場の一括譲渡に伴い盛岡工場勤務の原告従業員も転籍したので、これに対する退職給与の金額を原告の就業規則により合計三四万五、二〇〇円と計算して右資産から控除した。

以上により原告の資産譲渡益は合計三、九八二万四、六三二円となるところ、前述のとおり原告は二、五〇〇万円と申告したので、資産譲渡益計上もれ額は一、四八二万四、六三二円となる。

よつて、更正所得金額は一、七〇五万四、九五三円となり、原告が納付すべき法人税額は国税通則法及び法人税法の定めるところによつて算定すると五四二万三、九〇〇円となる。

4. 前項記載の、原告が納付すべき法人税額を算出するための基礎となつた事実が、原告の申告による更正前の法人税額を算出するさいの基礎とされていないことについては何ら正当な理由があるとは認められない。よつて、被告は前記の更正処分に伴い更正処分に基づいて原告が納付すべき法人税額につき国税通則法の定めるところに従つて二六万三、二〇〇円の過少申告加算税の賦課決定をしたものである。

四、抗弁に対する認否

抗弁事実は、同第3項3の資産譲渡益計上もれ額の加算の根拠とされた原告の盛岡工場の一括譲渡による譲渡益のうち、本件土地の譲渡益算定にあたつて被告がなした本件土地の譲渡時における時価の評価額の点を争うほかは、すべて認める。

本件土地の右時点における適正時価は一、二四九万一、〇〇〇円を超えるものではなく、これを二、〇八八万二、一九〇円とした被告の評価は過大である。従つて、右の差額八三九万一、一九〇円を差引いた所得金額八六六万三、七六三円、及びこれに対する法人税額二四八万七、一〇〇円を超える被告の本件更正処分は違法であり、また右法人税額二四八万七、一〇〇円と原告の申告によつてすでに確定した法人税額一五万八、一〇〇円との差額二三二万九、〇〇〇円に対する過少申告加算税一一万六、四〇〇円を超える同加算税賦課決定処分は違法である。

第三証拠

一、原告

1. 甲第一ないし第三号証

2. 証人泉進、同沓沢振作

3. 原告代表者

4. 鑑定

5. 乙号各証の成立はすべて認める。

二、被告

1. 乙第一号証、同第二号証の一、二、同第三号証の一ないし三、同第四号証の一ないし六、同第五号証の一ないし四、同第六ないし第九号証、同第一〇号証の一ないし四、同第一一号証、同第一二号証の一ないし三、同第一三号証の一ないし三、同第一四号証の一ないし三、同第一五号証の一ないし六、同第一六、一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九号証の一ないし八、同第二〇号証の一ないし四

2. 証人泉進、同斉藤俊三

3. 甲号各証の成立はすべて認める。

理由

一、請求原因事実はすべて当事者間に争いがなく、抗弁事実は本件土地の昭和四三年四月一日当時の時価の点を除いて当事者間に争いがない。

二、そこで、争点である本件土地の昭和四三年四月一日当時の価格について以下判断する。

1. ところで右価格は当時の正常価格(時価)によるべきであるが、その評価方式について、被告の援用する成立に争いのない乙第一号証本件土地の価額調査報告書、原告の援用する成立に争いのない甲第一、二号証鑑定書及び鑑定人久保田耿平の鑑定結果は、いずれも基本的には取引事例比較法を採用しているが、本件において右方式を採用するのが合理的でないとする格別の事由は認められないから、既に確立された鑑定基準の一つである右方式に基づいて本件土地の時価を評価算定することは相当なものとして是認さるべきものである。

しかして右法式によつて求められる比準価格の精度は、その性質上、近隣地域等における取引事例の選択の適否によつて影響されるものであるが、より適正な取引事例を選択して精度の高い価格を得るためには、その前提として対象不動産の最有効使用法の判定が必要である。本件において被告主張の時価と原告主張のそれとの間に大きな隔たりが存する原因の一つは、本件土地の最有効の使用を工場地とみるか或いは住宅地とみるかによるものであることが窺われる。

そこで先ずこの点につき、前記甲第一、二号証、乙第一号証、証人泉進及び同斉藤俊三の各証言並びに前記鑑定の結果を総合すると以下の事実が認められる。

(一)  本件土地は、国鉄東北本線盛岡駅から北方約五・二キロメートル同厨川駅から北北東約〇・五キロメートルの距離にあり、国道四号線が盛岡市の北部郊外から同市市街地へ入りかけるあたりの、右国道四号線(以下国道という)と東北本線軌条敷によつて東西を狭まれた南北約九〇〇メートルにわたる厨川三丁目一帯の地区内に位置し、地勢は平坦、日照通風は普通である。しかして本件土地は都市計画法上の工業地域指定区域内の北隅に位置し、国道の西側に面しているが、本件土地の南方、前記厨川駅前の厨川二丁目周辺は同法上の商業地域であつて、工場、倉庫、店舗、住宅等が混在している。また国道を隔てた本件土地の東隣周辺は都市計画法上の住店地域に指定されていて、東北農業試験場が広大な敷地を占有しているが、国道沿いには住宅も多数存し、近くに北厨川小学校があり、住宅地としての特性を具えている。次に本件土地の北隣には木材工場があつて、その北方は住居地域となつている。更に本件土地を含む工業地域指定区域の西隣の住居地域指定区域の谷地頭地区は住宅地として整備され、その需給は盛んである。そして本件土地を含む前記工業地域内には工場もいくつか散在しているが、しかし本件土地の周辺には、倉庫、資材置場、医院、商店のほか住宅地として使用されている土地が画地数としては多数存在する。

以上の状況は昭和四三年四月一日当時から現在に至るまで基本的には変化はない。

(二)  本件土地は間口約四メートル、奥行約一八メートルの下厨川字谷地頭(現厨川三丁目)四六番一〇の土地によつて国道に接し、その奥にその他の同番七ないし九の土地が一体として幅四五メートル、長さ約五〇メートルのほぼ方形をなして所在し、昭和四三年四月一日当時左記の地上建物が存し、右建物等が存在する状態のまま譲渡され、引き続き製材工場として使用されている。用益物権は何ら設定されていない。

(1)  木造コンクリートブロツク並びに鉄骨造り亜鉛メツキ鋼板スレート交葺二階建、床面積一階九三八・〇一平方メートル、二階八〇・九九平方メートルの工場兼倉庫

(2)  木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建、床面積七六・〇三平方メートルの事務所

(3)  ほか附属建物 二棟

右認定の(一)の諸事実を総合すると、本件土地は、都市計画法上の工業地域内にあつて、国道に面し、かつ国道と国鉄線路に挾まれた場所にあり、そして現に工場敷地として利用されているが、しかし工業地域内といつても住居地域に接する周辺部に位置し、現に、同工業地域内の本件土地周辺は、工場のほか、倉庫、資材置場、医院、店舗、住宅等が相当数混在しているばかりでなく、東、北、西側に広がつている住宅近隣や、南方の国道沿いの商住工が混在する商業地域からの影響を受けるであろうことが容易に推認される。そしてこのような近隣地域の特性に加えて、前記(二)で認定したように、本件土地は国道に接する間口が僅かに四メートル程度に過ぎない袋地のごとき形状を呈していることをもあわせ考慮すると、本件土地の最有効使用を工場地のみに限るのは相当でなく、また住宅地に限定するのも失当である。結局この点に関しては鑑定人久保田耿平の鑑定結果を採用し、住宅地あるいは事務所付倉庫ないし中工場地と判定するのが相当である。

従つて右最有効使用を工場ないし類似の企業用地とする観点から、同地方では比較的大手の企業用地の取引例のみを比較に選定して評価した被告援用の前記乙第一号証、及び住宅地に限定した原告援用の前記甲第一、二号証は採用しない。

2. そこで前記鑑定の結果によつて、先ず、近隣地域及びその類似地域における取引事例を比較し、かつ地価公示標準地の公示価格を斟酌して、鑑定時である昭和五一年一〇月一八日現在の標準価格を算定すると、近隣地域即ち国道背後未舗装幅四メートルの私道沿い規模一五〇平方メートルの更地の標準価格は一平方メートル当り二万〇、四〇〇円、また国道沿い即ち本件土地の北方至近の国道に沿う間口一二メートル、奥行三〇メートルの更地の標準価額は一平方メートル当り三万五、〇〇〇円であることが認められる。

ただし右鑑定は、次に右国道背後地標準価額と国道沿い標準価額の両者それぞれを基礎として各自の本件土地の比準価額を算定したうえ、結局両価額の中値である平方メートル当り二万円をもつて前記鑑定時における本件土地の比準価額として決定している。しかし前認定のように本件土地は国道に接面するとはいえ、幅四メートル長さ一七メートルの道路として使用されている土地部分(四六番一〇)によつて国道に接続するのみであつて、右土地は本件土地全体の面積に比較すると僅か二・七パーセントにしかならない僅少部分でしかないうえ、現に道路として使用され、また本件土地を隣接地と一体利用しない限り将来も道路として使用するほかない土地であることを考慮すると、本件土地の比準価格を算出するのに、国道沿地の標準価格を基礎とすることが適切であるとは必らずしもいい難く、むしろ前記国道背後地標準価額二万〇、四〇〇円のみを基礎とすべく、ただし本件土地が前認定のような形状をもつてではあれ、国道に接しているという立地条件のため、それが本件土地の価格の形成変動に影響を及ぼすであろうことを否定することができないから、かかる事情は個別的修正要因として考慮するのが相当である。

そこで次に、本件土地の個別的修正要因について分析するに、前記鑑定は、本件土地は街路付設のうえ面積各五〇坪程度に区画される住宅地として利用する場合を想定すると明らかに規模過大であつて、街路に使用すべき土地部分の価額相当分を減価する必要があるとし、その減価率を一〇・八パーセントとしているが、右減価の必要性及び減価率の数値は前掲甲第一、二号証及び証人泉進の証言にてらしても首肯しうるものである。他方、本件土地を一体として事務所付倉庫地又は中小工場地として利用する場合には、本件土地が前認定のように国道に接面しているという立地条件がその価格の増価要因として作用するであろうことは容易に推認しうるところであるが、この場合においても国道に接続する通路部分(四六番一〇の土地)が道路としての使用のみに限定されることによる減価が必要であることは前掲乙第一号証により認められるところであるから、前記鑑定の結果及び成立に争いのない乙第一四号証の三を勘案のうえ、右の用途に利用する場合の価格修正値としては九パーセントの増価率を採用するのが相当と認められる。

そして、先に認定した本件土地の最有効使用からすれば、本件土地の比準価格を求めるためには、これを街路付設のうえ小規模に区画される住宅地として利用する場合と、一体として事務所付倉庫地又は中小工場地として利用する場合とのそれぞれの価格修正要因を綜合的に考慮すべきであると考えられる。

以上により、本件土地の昭和五一年一〇月一八日当時の更地価額は一平方メートルあたり二万円、合計四、九五七万〇、六〇〇円と認める。

3. そこで更に、右価額を基礎として昭和四三年四月一日当時の価額を求める。前記鑑定の結果によれば、昭和四三年四月一日から昭和五一年一〇月一八日までの本件土地の地価変動率は三一三パーセントと認められる。右の数値は、同鑑定が参考とした財団法人日本不動産研究所の作成公表した「全国市街地価格指数」中の「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表」の住宅地についての指数にもとづく変動率数値に等しいが、同表の工業地指数及び用途地域別平均指数は、成立に争いのない乙第二〇号証の四によれば昭和四三年三月から昭和五一年三月までの変動率についてではあるが、明らかに住宅地の指数より小さい(すなわち変動率が低い)ことが看取され、従つて三一三パーセントという数値は住宅地あるいは事務所付倉庫地ないし中小工場地としての利用が最有効と認められる本件土地に適用すべき変動率としては不適ではないかと考えられなくはない。しかし、同鑑定は先の表の住宅地指数による変動率に加えて、固定資産税評価額の推移、相続税路線価の推移及び周辺の宅地地域における取引価格の動向を調査のうえおのおのの観点からする変動率を算出し、その特殊性、相当性及び本件土地の近隣地域の発展動向を綜合考慮して三一三パーセントという数値を導き出したものであることが認められ、右判断の方法経過は、これを相当でないとすべき特段の資料もないので、適切妥当であると認める。

よつて、昭和四三年四月一日当時の本件土地の更地価格は一、五八三万七、二五二円となる。

4. さらに、本件土地上には前認定のとおり製材工場として使用されている建物及びその附属的な建物が存するが、前掲甲第一、二号証、証人泉進の証言及び鑑定の結果によれば、本件土地を住宅地として利用する場合及び事務所付倉庫地(又は中小工場地)として利用すべき場合のいずれにおいても、右建物等の存在は本件土地の最有効使用にとつては阻害要因となり、本件土地の市場価格の減少要因となることが認められ、かつ、その減価率は右各証拠を綜合すると更地価格の五パーセントとするのが相当であると認められる。

よつて、本件土地の昭和四三年四月一日当時の適正な評価額は一、五〇四万五、三八九円となる。

5. 被告は前記鑑定の結果につき、参考とした取引事例はその実在と取引内容が鑑定の結果中に明らかにされていないので、取引価額が真実であるか否か、また、価格形成要因の格差による修正率が妥当であるか否か検討の方法がなく、また、鑑定書別表1記載の取引事例〈2〉及び〈3〉は取引規模が他の事例と比べて大きすぎ事例として不適当であるのにこれらを参考としているのは相当でないとして、鑑定の正確性を争うが、しかし、鑑定人が採取選定した取引事例の評細な内容を具体的に明らかにできないのは事柄の性質上やむをえないことであり、鑑定人においてことさらに取引事例の内容を歪めあるいは恣意的に斟酌したと疑うに足りる特段の事情が認められないかぎり、その鑑定書に掲げた取引事例に合致する事実の存在を認めるべきである。また、鑑定書別表1記載の取引事例〈2〉及び〈3〉の取引規模が他の事例と比較して大であることはそのとおりであるが、鑑定人は本件土地の最有効用途を住宅地あるいは事務所付倉庫地(又は中小工場地)としてこれに類似する取引事例を選定採用しているのであるから、右二つの事例が住宅地としては規模大にすぎるからといつてこれを参考とすることが不相当ということはできない。

三、前項に認定したところ前記争いのない事実を総合すると、原告が昭和四三年四月一日訴外小笠原に譲渡した本件土地を含む資産(盛岡工場)の時価は総計三、三九八万七、八三一円となり、これと実際の譲渡価額二、五〇〇万円との差額八九八万七、八三一円に相当する経済的利益は、原告の右訴外人に対する退職給与として供与されたものと認められる。そして、右退職給与につき原告が損金経理をしていないことは当事者間に争いがない。従つて、右差額八九八万七、八三一円は資産譲渡益の計上もれとして所得金額に加算されなければならず、これを加算した所得金額が一、一二一万八、一五二円となることは計算上明らかであり、これに対する原告の納付すべき法人税額は法人税法、国税通則法の定めるところにより三三八万一、三〇〇円となる。そして、原告が申告してすでに納付の確定した法人税額が一五万八、一〇〇円であることは当事者間に争いがなく、また原告が右認定の納付すべき法人税額を算出するための基礎となつた事実を申告のさいの法人税額算出の基礎としていないことについては、正当な理由があると認めるべき資料は存しない。従つて原告の納付すべき法人税額からすでに納付の確定した法人税額との差額三二二万三、二〇〇円につき、原告は過少申告加算税を納付すべき義務があると認められ、その額は国税通則法の定めるところにより計算すると一六万一、一〇〇円となる。

以上により、被告のした本件更生処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうちそれぞれ右各金額を超える部分は違法な処分であると認められる。

四、よつて、原告の本訴請求は被告のした本件各処分のうち前項記載の各金額を超える部分についての取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分についてはこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田辺康次 裁判官 吉武克洋 裁判官 池谷泉)

別表(一)

更正所得金額の計算内訳

〈省略〉

別表(二)

申告調整の明細

〈省略〉

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